民話から見える昔の増毛

明治時代に入ってから本格的な開拓が進み、高々150年程しか歴史のない「北海道」という土地は、古来からの暮らしや信仰の中で育まれるべき民話・伝承の類が極端に少ない地域であると指摘されてきました。

それでもアイヌ民族の神々にまつわる神話や開拓時代の人々の思いが込められた民話は、各地に見ることができます。
その多くは、困難が絶えなかったであろう当時の人々が生きていく中で肝に銘じておくべき教訓話や、実際にあった歴史事実が若干ストーリー性を加えて語り継がれているものなどで構成されているようです。

増毛に伝わる民話を紹介します。

「シュシュシナイの権六狸/高橋明雄 著」

昭和56年に高橋明雄氏が著した『シュシュシナイの権六狸』には留萌管内を歩いて氏が聞き取り調査をした民話35話が収められており、もちろん増毛に由来するものもあります。

たとえば町史に収録されている「増毛山道物語」は、秋田藩統治時代に増毛―浜益間をつなぐ山道において、旅人が山賊に襲われたこと、後に山賊は捕えられ多くの犠牲者を供養するために地蔵が安置されたことなどが伝えられています。

当時の人々が険しい山道を越えて歩かなければならなかった苦労や、明かりの無い時代に徒歩で旅をすることへの寂しさや恐怖も想像することができます。


タイトルにもなっているシュシュシナイの権六狸は、現在の留萌と増毛の境目にあたるシシナイ(平成10年より字改正で阿分となっています)が舞台となっており、土地に住まう狸の権六が、先立たれた妻の7回忌に供養するお金が無いことを嘆く与平じいさんの願いを叶えてあげたいと金貨に化けてじいさんの宅へと転がり込みます。

お経を上げてくれた龍淵寺の小僧が帰りに信砂川をわたる際、懐から逃げようと飛び出した権六が川で溺れてしまうところで話は終わるのですが、当時の信砂川には橋がかかっておらず、渡し船を頼らなければならなかった様子が見て取れますし、狸という動物自体も民家の周辺で身近に見られたという環境がストーリーの背後にはあったでしょう。

「オンネの枯れずの井戸」に由来している水神の碑や「増毛山道物語」の中で祀られた地蔵は今でも町内で見ることができます。

(増毛山道に祀られた地蔵はその後、別苅海音寺に移されています。)

前述の本『シュシュシナイの権六狸』を片手にゆかりの場所を散策してみるのも歴史の楽しみ方かもしれませんね。
(この本、元陣屋にもあります。)